2024年1月9日火曜日

「生きる」と、映画の目の話

 1月8日(月祝)、2024年の成人の日に合わせてNHKが「生きる」を地上波で放送した。

黒澤明監督作品はとにかく地上波にもサブスクリプションの見放題にもなかなか出てこず、観ようと思うとひたすら高い料金を払って買い求めるしかないので、今回のこのNHKの判断には拍手を贈りたい。

映画「生きる」の終盤で迫真の演技をみせる志村喬
(いらすとや)

本編が始まる前に流れた「巨匠 黒澤明監督」というテロップには、過去のSTAR WARS日本語版パンフレットにあった「偉大なモフ・ターキン」をなんとなく思い出して少し笑ってしまったが……。

久しぶりに観た「生きる」は、やはり素晴らしかった。

前に観たのはちょうど20年前。

嫌なことがたくさんあって精神的に疲弊していた僕は、その前年に会社を退職してカナダに移住していた友人の「じゃあ、遊びにおいでよ」という一言を額面通りに受け取って、一週間だけカナダで何もせずふらふらと過ごしたのだ。

そして、そこで紹介された現地の日本人向け英語教師をしている日本映画オタクのカナダ人青年に、「君は『Spirited Away(千と千尋の神隠し)』は観たか?え、観てない?じゃあ、黒澤作品は?さすがに『七人の侍』や『生きる』は観てるよね?」とがん詰めされ、どれも観てないと答えると、映画で観るようなオーバーアクションで「信じられない!君は本当に日本人か?ハリウッドやディズニーばっかり観てるとアホになるぞ!」とかなりキツく言われたのだ。

どうも彼は年が近い日本人である僕と日本映画談義が出来ると、かなりウキウキで僕の到着を待っていたようだが、意に反して僕が「『Raiders of the Lost Ark』は映画の最高のお手本だ!」みたいな事ばかりを言うのでどんどんと暗い顔になり、終いには「ハリウッドの映画なんて全部クソだよ」という言葉を残して、雨降る2月の寒いカナダの道をバイクに乗って自分の家へと帰って行ったのだった。

あの時はゴメンね、名前を失念した謎の日本映画オタクのカナダ人青年。でもね、君の熱い思いは伝わってましたよ。僕は帰国してすぐに「生きる」を観ましたからね。

ちなみに、なぜ「七人の侍」ではなく「生きる」の方をまず観たのかというと、当時、訪れたカナダのDVD販売店では、志村喬がブランコに乗っている場面の上に大きく「IKIRU」と書いたポスターがでっかく店内に貼り出してあって、「そう言えば奴(日本映画オタクのカナダ人青年)も『IKIRU』と発音してたな~」と、そこで強烈に記憶に残ったからです。

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それはさておき「目」の話。

「生きる」を観ると、やはり志村喬氏の「目」や「目力」が凄いという話題が持ち上がる。僕も初めて観た時、あのキャバレーでゴンドラの唄を歌う場面のあの目に、感動して涙したクチだ。

その眼孔には満々と涙をたたえ、こぼれ落ちる涙滴を気にせず、まばたきを一切しないで歌い上げる。その時間、およそ1分14秒。凄い演技だ!

同様に「まばたきをしない凄い演技」といえば、「コンタクト(ロバート・ゼメキス監督/1997年)」のジョディ・フォスターが映画終盤に見せる、星の海を観た時の驚きに満ちた顔の演技が有名だが、これは監督だったかスタッフだったかに「あれはCGでまばたきを消しているだけ」とあっさり種明かしされている。

また、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り("Scent of a Woman" マーティン・ブレスト監督/1992)」の盲目の退役軍人役であるアル・パチーノも、まばたきをしない見事な演技と絶賛された。
ただまあ、「盲目の人がまばたきをあまりしない」というのが本当の事なのかどうか僕は知らないので、あれがリアルな演技なのか盲目の人を表す記号的演技なのかどうか、そこまでは解らないけども。

とにかく人間は、なぜかは判らないが「まばたきをしない演技」に惹かれるものなのだ。

そして、その中でも志村喬氏の演技は、おそらく最長で最高なのである。そりゃ、カナダの日本映画オタクも絶賛する訳だ!

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完全に余談だけど、僕が今まで一番良く観た目のアップは、ハリソン・フォードです。「レイダース 失われた聖櫃("Raiders of the Lost Ark" スティーブン・スピルバーグ監督/1981年)」でのカイロでの追いかけっこのシーンで。

画面に映った面積も合わせてで言えば、それはおそらくモーガン・ポール。

誰やそれ!?って思う人が多いと思いますが、彼は「ブレードランナー(リドリー・スコット監督/1982年)」の最初に出てくる目の人(ホールデン捜査官)です。

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今回は完全にとりとめのない内容になったが、別に書くネタがないとか、息切れとかではないです。

久しぶりに観た「生きる」が相変わらず素晴らしかったので、「生きる」に触れる内容で書いてみたかっただけです。そんな日があってもいいじゃない!

ちなみに「千と千尋の神隠し」は、まだ観てないです。

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