2026年1月10日土曜日

「勝負が早い」という言葉

「勝負が早い」という言葉をご存知だろうか?

自分の周りでは比較的頻発する言葉なのだが、他ではほとんど聞いたことがない。

知らない人に説明すると「勝負が早い」とは、「正当な手段・手続きではない、見た目がよろしくない、安っぽい、荒っぽい、強引な、姑息的な、その場限りの、雑なやり方」のいずれか(もしくは全て)を含むニュアンスで使われ、しかし、結果は目に見えて素早く現れ、そしてその結果は「正しいやり方」に比べてそう悪くはないという方法、である場合が多い。

つまり、要するに「素早い仕事」の一種なのである。

こう聞くと、「それって『早いが勝ち』の事でしょ?」という人が出てくると思う。

実際、意味的には同じだと思う。

しかし「勝負が早い」と「早いが勝ち」は、使われる雰囲気がどうも違う。「早いが勝ち」は、どこか少年的であり、あるいは上品であり、周りの期待に沿う、トンチの効いて方法であるようなそんな印象がある。大人が使うならば、それはスーツが似合う場面である。

逆に「勝負が早い」は、もっと殺伐としている。

「どうしようか?」と普通一瞬立ち止まるところを「あーもう!こっちの方が勝負早い!」とばかりに一気に事を片付ける。そんな雰囲気なのである。なにか見た目の悪さや粗野的なもの、周りが心配して「いや、さすがにそれは……」と絶句するような、それが「勝負が早い」なのである。子供がこの言葉が使うとすれば、それは戦後の混乱期なのである。

そんな野性味あふれる言葉が自分の周りでは未だに現役で使われているのだが、前述の通り他ではあまり聞いたことがない。あまりというか、全くである。

「勝負が早い」は実際には「勝負早い」という言い回しで使われる。この「が」が脱落するのは、大阪弁的な言い回しなのだと思うが、もしかしたら「勝負が早い」自体も方言の一種なのかもしれない。

そんな訳で現実に使っている人や、活字で見たことがある人は是非教えてください。


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「勝負が早い」は、見た目はしゃれてなくて雑に見える一方、結果としては「きちんと成果が出ている」というのがポイントである。これを上手く伝えるエピソードを紹介しよう。

20年以上前の秋、紅葉を見に京都のあるお寺に行った時のこと。

そのお寺さんには、入口に立派な門があり、そしてその門には幅が広く段数があり少し曲がった石段があった。そんな、いかにもな「大きなお寺」である。

紅葉の季節という事で落葉が多く、石段も例にもれず枯れ葉が大量に積もり、風に舞い、散っては集まりして収集のつかない様相を呈していた。

「ここを掃除するのは大変やな。でもそれが修行なんかなぁ」

そんな事をぼんやり考えながら見ていると、門の内側から一人の僧が現れた。年の頃はおおよそ20代後半から30代半ばといった感じだろうか?お寺の規模から考えれば「小僧」扱いなのかもしれない。作務衣と頭に手ぬぐいを巻いて、草履履き。お坊さんのお出かけという雰囲気ではなかった。

「もしや、落ち葉の掃除をするのか?」

山門、階段、竹箒で落ち葉掃除。ああ、なんて秋の京都。これはちょっと見ものだ。僕はあの竹箒が地面を掻く「ジャッ、ジャッ」という音が好きなのだ。階段の「掃除面積」は広い。これは聴き応えがあるぜ!

しかし、その坊さんは一見手ぶらのまま、階段のおよそ真ん中辺りまで降りてきたと思うと、そこでピタリと歩みを止めた。

「あれ?竹箒は?」と思う僕の予想を裏切り、坊さんはタスキ状にかけてある紐に結んである巨大電動エアブロワーを背中側からグイッとひっぱりだすと、即座にスイッチ・オン。

「ンンンンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーー!!」

古刹には似合わない轟音を立てて電動エアブロワーはフル回転し、坊主は自身を中心としたブロワー勢力圏内にある落ち葉をあっちこっちへと吹き飛ばし始めた。

坊主は左右に2,3メートルほどうろうろと移動しながら電動エアブロワー使いとしての腕前を披露し、ものの1分ほどで階段から落ち葉を一掃したのだった。

僕が「マジかいな……」みたいな顔で見ていると、坊さんはサッと手を上げてニコッと笑った。そして、すぐさま踵を返して門の内側に消えていった。

「はぁ〜、これは確かに勝負早いわ……」

と僕は独り言のように呟いた。

電動エアブロワーの威力をまざまざと見せつけられた、11月の京であった。(SE:鐘の音)


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上記エピソードは、電動エアブロワーを使う掃除がすでにルーティンワークになっているところで「勝負が早いポイント」としては70点程度であるが、「京都・お寺・坊さん・落ち葉掃除」に対して「電動エアブロワー」という存在が減点分を補って有り余る程の「勝負が早い」雰囲気を醸し出している。

最高点を叩き出すには、小僧が落ち葉掃除をしていて全然終わらず愚痴を言っている。そこへ現れた高僧が袈裟の裏から電動エアブロワーを取り出して「こっちの方が勝負早い!」と言って実演してみせる、そういったシチュエーションが必要になるだろう。

ともかく、これで「勝負が早い」雰囲気は掴めたと思うので、日常の様々な場面で「勝負が早い」という言葉を使っていって下さい。

プトレマイオス一世にユークリッドが言った

「『勝負が早い』という言葉を広めるのに『勝負が早い』方法はありませんぞ」

という言葉通りなのだ!

みんなが使う事によって言葉は広まる。地道に広めていきましょう!





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