2021年2月6日土曜日

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記 (36)[完]

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記もくじ

潜水艦とその周辺公園を堪能した後、ウラジオストク港に向けてわっせわっせと歩いていたら、またもや日本人と話をしたいロシア人(多分飲んでる)に見つかり、しばし路上で歓談した。

そのロシア人の彼が片言の英語で言うには「日本はなんで原爆を2発も落としたアメリカと仲が良いんだ?ロシアと仲良くしようぜ!」というものであった。
また「和歌山県にロシアの(戦艦の?)砲塔が保存してあるので見に行って欲しい」という事も言っていた。

歩道の横には線路があり「Stand By Me ごっこ」も出来る
間違って電車に跳ねられた方は「死体役(The Body)」をやって下さい
その役も立派な「Stand By Me ごっこ」の一部です

実際に彼は日本にも来たことがあったようで、日本の写真を何枚もスマホで見せてくれたし、大変 日本贔屓なご様子であった。

お互いに伝わっているのか伝わってないのか良く判らない会話を5分程楽しんだあと、船の時間があるので、ということで最後にグータッチをして別れた。


再び出ました「謎の教会」
教会の前のクレーンが十字架に見えるという芸術性の高い写真
を撮ろうとして失敗
ま、僕はスナップ派なんで、こんなもんで良いんです

11時前にはウラジオストク港に着いたのだが、チケットカウンターはまだ開いてない上に行列も5メートルほどしか並んでいなかったので、ちょっと朝ごはんがてら軽食でも食べて、それから並ぶ事にした。

謎のおにぎりを発見して購入
開け方もサイズ感も日本のコンビニおにぎりと同じである
ただ、味は本当にもうなんと言うか絶望的に口に合わない
米料理とは思えない味だった


同じ赤い衣装を着た20人ぐらいの団体さんがいた
なんの団体だろ?と話を聞くと
「これからあの船に乗って日本に行くんです」
「僕らも同じ船で日本に帰るんですよ」


こんな日露友好的ななにかの団体さんでした
2018年は「ロシアにおける日本年、日本におけるロシア年」
だったんだそうです
旅行をするその国に「呼ばれた気がする」というのはこういう偶然なんです

11時20分ぐらいに、「さあ、メシも終わったし、いっちょ行くか!」と意気揚々とチケットカウンターに向かう。
この時は「11時にチケットカウンターがオープンしとるから、もう今やツーツーでチケット貰えるんちゃうか」ぐらいの軽い気持ちであった。

ところが先ほどは5メートル程度だった行列が、なんと約3倍の15メートル超に伸びており、しかも行列自体はまったく動いていないという地獄のような現実がそこに待ち構えていた。チケットカウンターはオープンしているのに、である。
僕らの前に並んでいるロシア人などは、行列の先頭を鋭い目つきで睨み、とても機嫌の悪いご様子。物凄く不穏な雰囲気である。

ただ、こんな不穏な雰囲気でも、誰も騒がない。文句も言わない。当然、怒号も罵声も聞こえない。ただひたすら、超不機嫌な顔をしながらジッと待っているのである。
本を読むとか、隣の友人と語らう訳でもなく、怒りに満ちた不機嫌な目つきでただ前を見つめている。これはなにか不思議な感じであった。

ロシア人と待ち行列は、本当に良く似合う。雪が降っていたら、きっともっと似合っていたに違いない。

1時間20分待ってやっとチケットカウンターの前まで来れた
あと、3,4組で我々の番だ
もう12時40分なんだけど、大丈夫なのか?

とにかく我々も待つしかない。
とても長い間待たされたおかげで、僕はその間に2回もトイレに行ってしまった。一人旅だったら、大変な目に遭うところである。

ようやく我々の順番になり「しかし、こんなに遅いとは、中でどんな手続きしとんねやろな?」と考えながらチケットカウンターの部屋に入る。
そして、一分ほどで我々は退出となった。
もちろんチケットは発券してもらっている。

つまり、この長い進まない行列の正体は、チケットを買うにあたり、必要な書類をきちんと持っていない・記入していない人が多く居て、チケットカウンターのスタッフがその都度その人の対応をしていた、という事なのだ。
いやもう、ホンマ勘弁して~。

通関前に最後のひと時
お土産や船内で食べるお菓子と共にアイスクリームを購入
これがロシアで食べた最後の食べ物となった

ところで、僕はこの復路のチケットを発券してもらうにあたり、出発前に井上くんから「760ルーブルだけは絶対に手元に残しておいて下さい!最後に要るんで!」と何度も何度も言われていた。
あまりにも何度も何度も言われたので、うっかり使ってしまわないように、封筒に760ルーブルだけを小分けして、丁寧に「760ルーブル」と書いてとっておいたのだが、結局このお金は使わずじまいでまるまる手元に残った。

「イノ、あの760ルーブルってなんやったん?」
「さあ……?」

いや、「さあ」やあらへんがな!
あの「絶対要ります!」はなんやってん!
760ルーブル要るのって、どこ発信の情報やねん!

こうして、チケット発行から通関までの短い間に「760ルーブルを使い切る」という新たなミッションが発生し、船内で食べる用のお菓子を少量買い込んだのであった。

軍人もいるイカツイめの出国審査場を無事通過し、船に乗りこんだのは13時半頃で、船室はなんと、行きとまったく同じハズレの方のエコノミー室で、ベッドまで同じであった。

甲板に出て最後のウラジオストクを眺めつつ、井上くんが見つけた面白い外国人乗客と喋っていると、あっという間に出港時間となり、船はそろそろと岸壁を離れた。

こうして約48時間のウラジオストク滞在は、終幕となったのである。
現地時間にして2018年9月19日14時50分のことであった。


この後も日本に帰り着くまでの間、船内や韓国でいろいろあったし、帰国してからは初めての出雲大社へお参りを果たす等いくつかの特筆すべき話題があるのだけれど、往路と違い復路での話題は書きすぎると本題のロシアでの出来事を希薄にしてしまうので、ここで一旦この連載は終了にしたいと思う。

初めは10回ぐらいの連載を計画していたので、これでも大幅な話数超過なのであるが、まだまだ書けていない出来事もあり、ちょっと名残惜しいというのが本音である。

この連載によって、ロシア・ウラジオストクがちょっとでも気になった人がいれば幸いです。

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記 完


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