2021年2月3日水曜日

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記 (33)

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記もくじ

”クレジットカード使用不能男” アイくんと一時別れ、鷲の巣展望台のケーブルカー乗車と夜景撮影の準備をするためにホテルに帰ってきた我々は、昨日の出発時間の遅さを反省し、余裕をもって18時にはホテルを出ようと決めた。

つまり出発はちょうど一時間後、ということだ。
それまでにカメラの準備をするのであるが、昨日の今日でパッキングはほとんどそのままだし、今日使ったカメラは清掃も充電も終わっているので、出発しようと思えばこの瞬間にも出発できたのである。
今思えば、多少疲れていてもこのタイミングで出発しておけば良かったのだ。なまじっか準備と時間に余裕があったのがいけなかったのである。


この時、僕は下のカプセルでガイドブックを読む井上くんと以下のような会話をした。

「ちょっと30分だけ寝るわ」
「いいっすよ。今日ちょっと歩いたし疲れたでしょ?(笑)」
「うん。30分経って起きてこうへんかったら起こしてくれ」
「了解っす」

そして、僕はそっと目を閉じたのである。

ふと目を覚まし、時計を見ると「40」という数字が文字盤に踊っていた。おっと、10分寝過ごしたか!でもまあ、5分もあれば準備出来るし、余裕、余裕。

カプセルから身を乗り出し、下のカプセルを覗くと、井上くんが先ほどと変わらない姿勢でガイドブックを読んでいた。

「あっ、起きましたか」
「おう!ほんなら準備して行こか!」
「いやもう、8時40分ですよ(笑)」
「ええー!!」

なんと、僕は30分寝るつもりが3時間も寝てしまったのである。

「鷲の巣は?」
「やめました(笑)」
「無理やり起こしてくれたら良かったのに……」
「物音立てずに死体みたいに寝てたから、なんか可哀想で(笑)」
「はぁ、すまん……」
「まあまあまあ、良いじゃないですか。そんな事もありますって(笑)」

ほとんどの準備は済んでいた
この雑然とした荷物の横で寝返りも打たず死んだように寝ていたのだ
いや、死んでいたのかも知れない
きっとそうだ

井上くんはこの手の失敗に対しても超おおらかなので、一緒に旅行をしていても大変助かるのだが、彼がこの旅で1,2番目に楽しみにしていたケーブルカー乗車と金角湾横断橋の夜景撮影を同時に二つとも断念させてしまい、正直かなり申し訳ない気持ちになった。

すまん、すまんと謝っていると

「アイくんが来てますよ~」

と、昨日の「賢い組」の一人が教えてくれた。
そうだった、今度はアイくんの「夜のATM現金引き出しツアー2018」を敢行せねばならないのだった。こっちはちゃんと完遂しなければならない。
でもまあ、「現金引き出しツアー」に関しては、僕は一緒について回る以外に大した事はなんにも出来ないんだけどもね。

とにかく、さっそく三人でまず手近なIMAXシアターのATMに向かう。
ここで2回、10,000ルーブルぐらいは引き出そうかと思っていたら、ATMが謎のエラーでグルグル状態のまま停止していた。

延々とグルグルし続けるATM
誰か直しに来いよ~


いきなり出鼻をくじかれた格好である。まいったな。
お金を早く回収したい我々は、どうせ遅かれ早かれ夜の街にATMを探しに行かなければならないのだから、ここはさっさと見切って次に行こうとなった。
そして、ウラジオストク港からホテルまでの経路にあった「階段の上にあるATM」の存在を思い出し、そこへ向かった。

「階段の上のATM」
のちに「神の宿るATM」と呼ばれる事になる


ATMを操作していた井上くんが声をあげた。

「ここ、9,000ルーブルまでいけますよ!」

なに!?
しかし、また ぬか喜び なんじゃないのか?

「いや、これ、やっぱり9,000ルーブル出ますよ!!」

9,000ルーブル出たー!!
思わず握りこぶしに力がこもる!


「このATM、『アタリ』です!!」
「おお!これでちょっと回収の手間が減るな!」

わずか4,000ルーブルの差だと思うかも知れないが、この差はデカイのである。

さっそく、2回、3回とお金を下ろすが、4回目に突入した時にそれは起こった。

「あれ?お金出ませんけど?」
「もう一回やってみようや」
「やっぱり出ませんけど……」

お金を吐き出さなくなったATM
「なんか、(ATMが)言うてるんですけど……」
エラー表示が出て出金停止となった。


「同じ端末で連続で出すとアカンのやろか?」
「じゃあ、他のとこ 行ってみます?」

金額を確認する井上くん
とりあえず、この「神の宿るATM」で
9,000 x 3回 = 27,000ルーブルをゲット


原因は解らないがとりあえずATMを替えてみることに。

ウラジオストク駅前 レーニン像の横にあるビル内のATM
ここでもお金は引き出せなかった

裏通りにあった路上ATM
通称「字のデカイATM」
文字通り画面の表示文字がデカイ

このATMは説明を読んでいると頻繁にタイムアウトをする
その度に「MORE TIME」を選ばなければならない
面倒くさいのでこのATMはパスする

裏通りのビル内にあるATM
ここのビルはATMが豊富にあったが5,000ルーブルまでの上に……

やっぱり引き出せなかった


こうして引き出せないATMを転々としてエラー表示を読むうちに、どうやら先ほど勢いに乗って連続で出金した事によって「海外で連続で引き出されている。もしかして犯罪?」と疑われて銀行側が口座(カード)をロックしたのではないかと推察されるようになった。

この場合、有効な手段は「待つ」である。
とりあえず、ホテルに戻って一時間待ってみる事にする。

この時、「安全第一・強盗最下位」な僕は、大回りでも比較的安全そうな表通りから帰ろうと主張したのだが、井上くんは「いや、近いしこっちでイイっしょ!」とうす暗い裏通りをホテルに向かって歩きだした。

こんな人通りのない怖い裏道を帰るのだ
もう、21時40分なんだぜ?
(露光長めで明るく撮ってます)

寝坊の件もあってなかなか強く意見の言えない僕は、周りの樹木の不自然な動きや、人の話し声に細心の注意を払い、頭の中で逃げ方のシミュレーションをしながら歩いた。

そして、ホテルまであと数十メートルというとこまで来た時に、脇から黒い服を着た人間がわっと僕の前に躍り出た!
「ほらだから言うたやーん!」と身構えながらその「黒い服の人」を見ると、相手は僕の顔を見て「あ~っ!」と、驚いた顔をしている。
驚きたいのはこっちの方や、と思いながら相手の顔をジッと見ると、なんと、初日に炭火串焼料理を食べた店の店員さんだったのだ!

はい、ポーズ!
左の黒い服の人が店員さんですね

彼女は実は強盗の一味、ではなく、タバコの火を借りたくて声をかけたら、それがたまたま僕だったという事であった。
ロシア(ウラジオストク)の人は、本当こういうところが人懐っこいというかオチャメというか、面白いです。
ま、一瞬、怖かったけど(笑)

ま、そんな事もありつつ、ホテルで適当に時間を潰し、一時間後にまた「神の宿るATM」へやってくる。

すると、やはりお金は出た!
さすが「神が宿るATM」!

操作も軽やかな井上くん
三回出して休む、三回出して休む

面倒くさいので3回出した後もホテルに帰らず
ウラジオストク駅で撮影大会などをして時間を潰す
大体30分ぐらい間をあければ大丈夫のようである

いよいよ最後の5,000ルーブルを引き出す井上くん
右手に伝わる振動でお札がどれぐらいの枚数で支払われるかまで判るようになった

今まで出したお金をバックパックに詰めるアイくん
凄い量の札束になった
ここだけ見たらまるでATM強盗のようだ

毎回律儀にレシートのあとに一枚だけゆっくり出てくる紙
「THANK YOU」と書かれている
こんなところにも「ロシアンほっこり」が!
でも、これが出ないと次の操作が出来ないので早く出て欲しい

こうして、すべての現金を引き出すことに成功した。
この時、時刻は23時30分で、なんとか18日中に間に合った。

井上くんの念願であるバーガーキングで祝杯
よく考えたらこの時間まで晩ごはんを食べてなかったのだ

バーガーキングで祝杯兼遅めの晩ごはんを食べたあと、アイくんはそのまま車に乗って出発するとの事だったので、再びIMAXシアターの駐車場までみんなで行くことにした。

彼が懐中電灯を持ってないと言うので、僕は鉄板にくっつくように改造した100均のライトと電池を餞別にあげ、「この横断旅行が成功して本書く時は俺らとの事も書いてくれよなー」とフェリー下船時と全く変わらない若干のやらしい事を言いつつ、別れを惜しんだ。

アイくんは何度も何度も「ありがとうございました。ありがとうございました」と繰り返し、ややゆっくりと車を発進させた。

我々は出庫ゲートのところで、彼の車が見えなくなるまでじっと見送った。

出発するアイくん
ゆっくり走る彼の車はなかなか視界から消えなかった


時刻は日をまたぎ、19日の0時4分になっていた。

(34) へつづく

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