2021年2月2日火曜日

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記 (32)

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記もくじ

”クレジットカード使用不能男” ことアイくんの「軽自動車によるロシア横断計画」を救うため

(1) 彼の親が井上くんの銀行口座に当面の生活費を振り込み
(2) 井上くんがそれをATMで引き出し
(3) その現金をアイくんに渡す

という日本海を跨いだ壮大な現金三角トレードが、今まさにIMAXシアターの目つきの異常に鋭いガードマンの眼前で執り行われていようとしていたのである。

井上くんがキャッシュカードを挿入し、暗証番号を入力する。英語表記に切り替えられた画面表示から「WITHDRAWAL」を選択し、さあ金額を入力して現金を下ろすのだ!

「一気に出せるだけ出そうや」
「いやこれ、5,000(ルーブル)までしか……」
「ええっ!?」

なんと!
理由は良く判らないが井上くんのキャッシュカードでは一回につき5,000ルーブルまでしか引き出せないようだ。

IMAXシアターのATM
井上くんのカードは生きていた
しかし、引き出し限度額がなんと5,000ルーブルまで


我々(というか井上くん)がアイくんの親から託されたお金は20万円。当時のレートで約12万5,000ルーブルという金額だ。
一回につき5,000ルーブルしか引き出せないとしたら、25回もATMの操作をしなければならない。これはさすがに面倒臭すぎる。

「これは話になりませんわ。他のとこ 探します?」
「そやな」

時間はまだ14時50分。次の予定まで全然余裕があるので大丈夫である。

車の運転はアレなので、歩いて昨日の夜に見つけた「豪華なステンレス階段付きATM」に行くことにする。

10分ほどダラダラ歩いて到着した「豪華な(略)ATM」は、引き出し金額の項目に「150,000」、「100,000」、「50,000」等の巨大な金額が誇らしげに並んでいた。さすがは「豪華な(略)ATM」だ!
「よし、勝ったな!」と思っている中、ATMを操作する井上くんから続々と報告が届く。

「『100,000』はあきませんね。あっ、『50,000』もダメですわ」
「下ろせるのは?」
「やっぱり『5,000』だけみたいです」

ぬか喜びさせる「豪華な(略)ATM」
辺りが明るいため液晶画面もよく見えない


なぜかは解らないが「100,000」や「50,000」は、選択してもエラーで終わるようである。
海外のカードだからなのか?

ここでの現金引き出しも中止し、今度は大通りにあるであろう銀行直付きの「ATM部屋」へ行ってみることにする。
アテはなかったが、大通りの交差点に出たところであっさり銀行が見つかった。

ロシア語の銀行(BANK)はこう書く!
ちなみに発見した銀行は「スベルバンク」という
芸人殺しのような名前の銀行であった……


よし!銀行のATMなら、銀行のATMならやってくれるはずだ!

さすが銀行直属のATM、今まではデザインすら違う!
格好いい!
しかし、これはキャッシングが出来ない端末だった……
なんの端末なんだ、これ?

「あっちのを使おう!」
提案する私の腕

「ここも5,000までしか無理みたいです……」
またしても悲報が届く


しかし、やはりどうあっても5,000ルーブルまでしか引き出させてくれないようだ。
銀行なので行員さんに相談すれば現金一括で払い出ししてくれたかもしれないが、ダー、ニエット、ハラショー、スパシーバと、あとはガスパージンにモルニアという「ゴルゴ13」に出てきたロシア語しか知らない我々には、その交渉はどう考えても不可能であった。

また別のATMを探しに行こうかと思ったが、一度本当にお金が引き出せるのか確認しておかないか?という事になり、試しに5,000ルーブルを引き出してみる事にする。

あっ、上手くいったみたい
ほら、お金出てきますよ~

おわー、なんと5,000ルーブル札一枚で出てきた!
1,000ルーブル札でも支払いに苦労するのに……
アイくんは1,000ルーブル札以上での支払いの苦労を知らないので
我々が「あ~あ」と言ってるのを不思議そうな顔で見ていた


結果として、5,000ルーブル札一枚をゲットする事に成功する。
とりあえずはこうして、井上くんのカードが完全に機能しロシアのATMでお金を引き出せる事までは証明できた。あとはこれを最低でも24回繰り返せば良い訳だ。24回……。

ここで一旦、遅めのお昼ごはんを食べながら今日の予定を再確認して、いつどのタイミングで「24回チャレンジ」をするか決めよう、という事になり、我々はまた例によって海沿いの公園まで10分近くかけて歩いて移動した。

三人前の肉串焼き料理とロシアン焼き飯
どれもこれも美味いのだ!
また食べたい


アイくんに昨日の「美味しいジューズ」をおごる井上くん
「じゃ、僕は水で良いです」
「そんなヌルい事は許されない!」
井上くんの態度に昨日のジューズの味もうかがい知れるというもの
ちなみにこの日は二台とも動いていなかった
アイくんセーフ!

また射的をする井上くん
かなり強力なエアガンで反動が強い
しかしコレ、どう見ても銃身が下に曲がってるような……

アイくんも射的にチャレンジ
今回は邪魔するロシア人は乱入してこなかった

そしてここで、我々は今日これから鷲の巣展望台に行くので、アイくんとは20時半ごろを目処にもう一度ホテルで集合し、夜の散歩もしつつ路上のATMから次々とお金を抜いていこう、という作戦が決まったのである。

ただし、夜になってATMからお金が下ろせなくなった場合は非常にまずいので、今からIMAXシアターに寄って、人の邪魔にならない程度に粘り、いくらかお金を抜いておくことにした。
最悪でも明日の朝、船の出港までにATM巡りをすれば出金自体は全然間に合うのだが、今晩アイくんが不安になったり不自由しないだけの現金を渡しておくことにしたのである。

アイくんが見張り役となり、邪魔にならないようにATMを使う


IMAXシアターのATMで、25,000ルーブルを抜き、先ほどの銀行の分と合わせて30,000ルーブルをアイくんに渡すと、僕と井上くんはホテルに戻り、鷲の巣展望台撮影のための準備をすることにした。

時間はちょうど17時であった。

「今日は早めに18時にはここを出ましょう!」
「そやな、ケーブルカーも乗らなアカンもんな」

そんな会話をしたあと、僕は今回の旅で一番の大チョンボをかましてしまうのであった。

(33) へつづく

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