2020年4月19日日曜日

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記 (16)

おろしや国無酔譚 ウラジオストク滞在記もくじ

鷲の巣展望台、それはウラジオストク有数のビュースポットで、ウラジオストクを紹介する本には、必ずここから撮った金角湾横断橋の写真が使われているという、そんな伝説の展望台なのである。
※ ちなみに「わしのす」であって「たかのす」ではない。この展望台名を口頭で伝える際、非常に良く間違われているのであえて書いておく。

さらにちなみにワシとタカはクジラとイルカ同様
大きさで区別しているだけである(豆知識)

そんな超有名な、だけど名前を間違えられまくってる、観光名所中の観光名所な展望台なのであるが、そこへ辿り着くためには「ボロボロな歩道橋」、「踏む場所を間違えると崩れる階段」、「ボコボコの地道」というインディー・ジョーンズの聖杯伝説もびっくりの3つの試練(トラップ)が待ち受けているので、「どうしても夜景が見たい!」という強い動機がない限りは、お昼に行った方が無難です。
特に陽が落ちてからは、通路が階段も含めて真っ暗になるので要注意です(外灯が無い)。

さて、我々であるが……。

そんなトラップを見事回避して展望台に来てみれば、思った以上に人がたくさん居て、とても賑やか。三脚まで担いでデカい荷物の我々二人はなにか場違いな雰囲気であった。

ともかく夜景を撮るということで、三脚をひろげなければならないので、人の多い展望台中心部から外れ、薄暗い土手状になっている場所に移動する。


展望台からの眺望パノラマ図
「アタリ」をとるために撮った写真2枚から手動で合成
マジックアワーは終わりかけ寸前だ

ちょちょいと三脚の設置も終わり、さてどこで露出を取ろうかと考えていると、井上くんが不満気な声で話しかけてきた。

「テツローさん、やられましたわ」
「どしたん?レンズ触ったん?」
「ちゃいますよ。この橋の写真、ここで撮ってもこんな風には映らないんですよ!」
「はえ?」

見ると手には、我々がウラジオストク観光をする際に唯一の心の拠り所にしていたガイドブックが握られていたが、そこに写っている金角湾横断橋は確かに我々が見ている風景とはちょっと違っていた。

「これ、もっと高いところから見下ろすように撮ってますよ!」
「ほんまやな。(自分の背後にある)あの建物の屋上からかな?」
「いや、あれより高いところですよ!」
「ドローンかな?」
「この角度で撮れないんですよ!完全にやられましたわ!」

今回の旅行、金角湾横断橋を美しく撮るという事を第一義としてはるばるウラジオストクまでやって来た井上くんは、がっかり&憤慨で納得しかねる様子であった。

それに対して、鷲の巣展望台の思い出は「この程度の写真(下記参照)」で十分納得出来る僕は、「まあまあ、そんな事もあるやん」ぐらいの心持ちであった。

「この程度の写真」

実際のところ、僕と井上くんとでは、撮りたいと思う写真の傾向にちょっとズレがある。

僕は「お気楽スナップ派」で、井上くんは「とにかく出来る限り綺麗に撮りたい派」だ。
そして、僕は一枚撮れば大体満足するが、彼は綺麗に撮れるまで何枚も何枚も撮る。

基本的に僕は、例えそれが美しい写真として残ったとしても、長時間露光をする夜景はあまり好きではない。自分の眼で見た風景と全然違う雰囲気の写真になるからだ。
ただまあ、僕個人としても、そういった「美しい風景写真」が撮れた方が良いのは良いし、自分の今現在知ってるだけの「撮影豆知識」でどの程度のものが撮れるのか?というのにも興味があった。さらに、同じ場所で競作というのもやったことがなかったので、今回は夜景にチャレンジしてみようという訳なのだ。




結果としては、しつこく撮り直してたのは僕の方でしたが。

井上くんから何度も「もう良いですか?」、「まだ撮ります?」、「納得しました?」と言われてなお「あと10分」、「もうちょっと設定変えたい」、「あと1枚」、「場所変えて撮ってもいいかな?」と言って撮り続けるワタクシ。
終いには「いや、明日も来るから今日はもうええでしょ?」と強めに説得される始末。


とっぷりと陽が暮れてからの一枚
下側の光のラインは、歩行者の懐中電灯の光の軌跡
歩道の辺りは本当に真っ暗なので夜は懐中電灯必携ですよ

「帰りのバスがイマイチよく判らないので早く帰りましょう」と言う井上くんに背中を押されて、ようやく離れる鷲の巣展望台。

マジックアワーで撮るにはギリギリ過ぎたし、結局ケーブルカーにも乗れなかったので、「明日は早目に来て絶対ケーブルカーに乗りますよ!で、もう一回(夜景を)撮りましょう!」と意気上がる井上くん。
結果に納得いかなかった僕も「よし、明日リベンジしよう!」と大いに賛成したのだった。

明日のことはともかく、今はこれから乗るバスの事を調べなければならない。
しかし、バス停の系統図を見てもよく解らなかったので、そこに居たバスに乗るであろうロシア人にも積極的に訊いて路線を確認する。

Google翻訳を駆使してバス路線を確認する井上くん
相手はロシア人の学生さんでとても優しかった


井上くんがバスの確認をしている間
路上にキリル文字ステンシルを見つけて狂喜乱舞する私

こうして井上くんが一生懸命調べた結果、目的のバスが判明。
すぐにそのバスが来たので乗ってみる、が、バスの挙動がちょっと変だ。

「今の所、右折ちゃうの?」
「いや、こういうロータリーをぐるっと回ってUターンするのがロシア流なんじゃないですか?」
「合ってんの?」
「合ってますよ」
「橋渡ったらアカンねんで?」
「いやいや、大丈夫でしょ!」
「これ、橋の方へ行く道ちゃうの?」
「こっから脇道にそれて……」
「ほら、これ橋の道やん」
「……」
「橋渡ってるみたいやけども」
「ホンマですね」
「……」
「……」

こうして我々は一番間違ってはいけない「橋を渡って対岸側へ行くバス」に乗ってしまい、即座に折り返しのバスで帰ってくるのだった。ちゃんちゃん。



でも、ロシアは公共交通機関の運賃がとても安いので、乗り間違えてもあんまり苦にならないですけどね。
最終便が行ってしまった後なら焦りますけど、さすがにそこまでのヘマはしないのです。

(17) へつづく
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