ちょっと前に、X でこんなポストがあった。
巷で若者に使われる「ワンチャン」、どうも30年以上前、中学生のとき読んだ麻雀教則本で知った、牌を捨てる際の判断根拠「ワンチャン」に使い方似ているが、でもそんなはずないよなあ、と思って調べてみたら、まさに由来はこの麻雀用語で、言葉が不意にジャンルを越境していく様は本当に不思議です。
— 万城目学 (@maqime) January 31, 2025
正直言って、若者言葉の「ワンチャン」が麻雀用語から来たとは全然思わないです(理由は後述)。
それこそ、そんな事実は「ワンチャン」あるかって感じだと思います。
ま、それはそれとして。
さて、タイトルの「ワンチャン」よりも意外な麻雀から広まった言葉とはなにか?
麻雀由来で一般的な言葉になったものには、有名なところでは「リーチ」、「テンパる」、「対面(といめん)」、「両面(りゃんめん)」、「白板(ぱいぱん)」、「一気通貫・一通」、「安全牌・安牌(あんぜんはい・あんぱい)」などがある。これらの言葉はある意味「純粋麻雀用語」が意味を微妙に変えて日常の言葉にまでなったものである。
しかし、「その言葉」は、こういった「純粋麻雀用語」から一般的な言葉になったのではない。
「その言葉」は実は昔から存在するれっきとした日本語で、それが麻雀の流行とともに市民権を得て、一般人も普通に使うようになったという、いわば「麻雀に発掘された日本語」なのである。
その言葉とは「ツキ」。
あの「ついてる・ついてない」の「ツキ」である。
古い麻雀雑学本「麻雀ものしり事典(灘麻太郎/芳文社/昭和57年)」にこういう一文がある。
「ツキ」という言葉は、麻雀がまだわが国ではさほど流行していなかった大正末期頃には、ほとんど使われていませんでした。「ツキ」という言葉は、麻雀が流行しだしてから、口にのぼるようになった、一種の流行語なのです。
「麻雀ものしり事典」P.175
もちろんこの一冊だけの記述で「どうだ、これが証拠だ!」という気はないのだが、しかし、気持ち的には麻雀によって「ツキ」という言葉が流行ったというのは十分に解る気がする。
日常生活をただ普通に営んでいるだけだと「ツキ」の事を意識することはそうないだろう。天気や事件・事故といったものでちょっと考えるぐらいだ。二度三度と「なにか」が重ならないと「ツキ」の事なんて考えないだろう。
ところが賭け事をすると「ツキ」の事は日常の10倍も20倍も意識するようになる。
そして、麻雀は博打が出自のゲームで、「運」や「ツキ」を強く意識させられるゲーム性となっている。
麻雀をやってる時に感じるあの摩訶不思議な偶然性というのは、やはり当時でも「ツキ」という言葉を用いないと説明も納得も出来なかったのだろうと思います。
だから、麻雀が流行ると同時に「ツキ」という言葉も新たに市民権を得て、どんどんと広まっていったというのは十分あり得る話だと思います。
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さて、「なぜ『ワンチャン』が麻雀発祥の一般語ではないと思うのか」についてですが、これも誰しもが納得する根拠というものは正直ありません。調べようもないし。
なんというか、元ポストの内容に非常に引っかかる点があるので、「さすがにこれは違うんじゃないの?」と否定的に捉えてしまっている、という部分も多分にある。そういった部分も差し引きして読んでいただけたらと思います。
まず、「30年以上前」と「以上前」で保険をかけてはいるが、麻雀で使われるところの「ワンチャンス」という用語は、30年以上という言葉では済まされない程の歴史を持っていて、今思いつくだけで言っても「片山まさゆきの麻雀教室/片山まさゆき」、「はっぽうやぶれ/かわぐちかいじ」に「ワンチャンス」が出てくる。これらは1980年代半ばの作品なので、さらに10年は軽く遡れる。
そこから先でも、福地泡介、天野大三、天野晴夫、栗原安行、五味康祐、畑正憲の各氏や、それこそ阿佐田哲也氏の著作を読めば出てくると思います(未読なので知りませんが)。
それでですね、こういう長い歴史を持つ「ワンチャンス」という用語が、麻雀教則本等で「ワンチャン」などと中途半端に略された形で活字になったことは、多分一度もないと思います。90年代に突発的にそうなったとか、ある一冊だけそういう表記だった、というのであれば別ですけども。
だからまあ、この点ですでにヨタくさい話な訳なんです。
「調べてみたら、まさに由来はこの麻雀用語で」と書いてあるけど、どこでどう調べたのかの説明もないですしね。
それに元々英語には「One chance」、「No chance」という言葉が普通にあるし、「ワンチャン」という略し方は、英語の発音をそのままカタカタに変換したものっぽいので、麻雀とは関係なく、映画や音楽、あるいは英語に堪能な友人から聞いたそれをそのまま使っただけ、という気がします。「マクドナルド」を「マクダーナル」と言ったり書くのと同じような、シャレ・冗談の類でしょう。
これが、個人的に「ワンチャン」は麻雀由来じゃないと思う理由です。
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これを書きながら思ったんだけど、最近は麻雀の「ワンチャンス」もあまり言わないような気がする。
そして「ワンチャンス」と同時に出てくるはずの「壁」という用語は、「ワンチャンス」以上に聞かないような……。
安全牌を探す時の考え方が昔とは変わってきてるって事でしょうね。
あと、これは本当に完全なる余談ですけども、上記の「麻雀おもしろ事典」は、書いてある内容が非常に面白いので、機会があればみなさんも読んでみて欲しいです。
ただ、結構な希少本なので、古本屋さんやオークションで探しても、入手の可能性はほとんどノーチャンスだと思いますけど。
ちなみに、件の本では「ノーチャンス」の事を「ゼロチャンス」と書いてあります。
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