2025年2月11日火曜日

横山やすし氏の「かわりべんたん」誕生の秘密

 先日、Wikipediaの「横山やすし」の項目を読んでいて、ギャグの節で以下のような文章を目にした。

かわりべんたん、かわりべんたん(かわりばんこの代わりにこの語を好んで使う。由来はまったく不明。発音としては、かわりべったかわりべった)

故・横山やすし師匠の有名なギャグ「かわりべんたん」の説明であるが、ここでは「由来はまったく不明」と書かれている。

ただ僕は、この言葉の由来を知っている。



とは言っても、かなり昔の記憶なので、当然曖昧な部分も多く、「これがルーツだ!」と迂闊に主張すれば Wikipediaでは間違いなく[要出典]や[自由研究]タグが張り付けられ、不毛な編集合戦が発生する事態に陥ることだろう。

だからこれは例の「半径5mの見聞録」というやつで、「そんな話もあるんかいな」ぐらいで読んで下さい。

はい、いいわけ終了。


####


では、その「かわりべんたん」であるが、僕がこれを初めて耳にしたのは、実は横山やすし氏からではない。

しかし、だからと言って、自分の周りの人たちが使っていたかというと、それも違う。

「大阪の人は『かわりばんこ』と言わず『かわりべんたん(べったん)』と言う」みたいな言説がまことしやかに流布しているフシもあるが、少なくとも自分の周りでは「かわりべんたん」に類する言葉は一切聞いたことがない。

実際のところ、僕が「かわりべんたん」という言葉を聴いたのは、ある大阪ローカルのテレビ番組からで、その番組には実は横山やすし氏も出演していたのである。

それはおそらく、土曜か日曜の夕方、MBS(毎日放送)かABC(朝日放送)の番組だったと思う。

その番組では、企画としてロケで一般人にインタビューをして、その受け答えをスタジオで観るというのがあった。そしてその時、ある一人のオバサンがインタビューアーの質問に対して、なにかの動作を説明する言葉として「”かわりべんたん” で」と言ったのだ。

スタジオでそのVTRを観ていた横山やすし氏は、その奇妙な言葉に即座に反応し「どこの言葉やねん!」とツッコミを入れていた。

これが「かわりべんたん」と横山やすし氏の邂逅の瞬間であった。

つまり、非常に悪い言い方をすると、横山やすし氏が素人の言葉をパクって、そのまま自分のギャグにしてしまった、というのが事の真相なのである。

やすきよ漫才において「かわりべんたん」が登場した時期が正確に分れば、件の番組の放送時期も絞れるのだが、今のところ大まかに70年代末〜80年代初頭ぐらいとしか分からない。

しかし、今の放送局では、出演者や放送内容を索引にした番組検索システムが社内にあるので、MBSやABCが本気になれば、多分あっさりとこのビデオは見つかるだろう。


####


さて、以下はちょっとした余談。

「かわりべんたん」という言葉は一説によれば河内弁や泉州弁にルーツがあると言われているが、それが本当なのかどうかは正直良く分からない。

横山やすし氏は高知県の生まれだが、小学生中学生と大阪の堺市で育っているので、泉州弁あたりの言葉には馴染があったはずである。その氏でさえ「かわりべんたん」を聴いて「どこの言葉やねん」と言ったのだから、泉州等大阪周辺の言葉ではないような気がする。

ところが、漫画「じゃりン子チエ」の21巻 第八話「ヤクザな儲けは体に悪いの巻」の129ページに、チエちゃんのセリフで「ここで みんな かわりべんたで 同ンなじこと ゆうてる みたいやなあ」というのが出てくる。

作者のはるき悦巳先生は大阪市西成区の生まれで、「じゃりン子チエ」で出てくるセリフは、少し古風で大げさではあるが、生の大阪弁に非常に近い。特に語彙や言葉の区切り方、「てにをは」の抜き方は、大阪弁を知らない人には、正確に意味を読み取れない可能性があるぐらい「生々しい大阪弁」となっている。

そんな生粋の大阪弁マスターであるはるき先生が「かわりべんた」という言葉を使っているのだから、これに近い言葉が大阪弁にあったのかも知れない、という気持ちもある。

ただ、この「じゃりン子チエ 21巻」が発売された1984年には、横山やすし・西川きよしは全国区の大人気芸人になっており、すでにギャグとして「かわりべんたん」を使っていたはずなので、それを踏まえた上での使用だったとも考えられる。

この辺り、はるき先生に詳しくお伺いしてみたいところであるが、当の先生はきっと「そんなん、全然覚えてないわー」と、サッと流してあっはっはっと笑われる事だろう。

そんな訳で「かわりべんたん」という言葉のルーツ自体は不明だけど、横山やすし氏のギャグ「かわりべんたん」の誕生は、インタビューに答えた素人の一言から、というお話でした。

ちなみに、上記のWikipediaには「発音としては、かわりべった」と書いてあるが、僕の記憶では、「かわりべんたん」とかなりハッキリ聴こえたし、しかも時を変え場所を変え、何度も何度も「かわりべんたん」と言っていたので、この項目を書いた人が「特殊な例」を聴いただけだと思います。

信じるも良し。

信じなくても、まあ良し。


以下、追記:

とりあえず確認でYouTubeを検索してみたところ、以下の漫才を発見した。

この漫才の8:27過ぎのやりとりで「かわりべんたん」が出てくるが、西川きよし氏の「どこの言葉や」という問いに答えて、横山やすし氏は「堺弁やこれは」と言っている。

この漫才は1981年の「ALL THAT MANZAI」のものなので、少なくともこの頃には「かわりべんたん」は当たり前に使っていたのだと思われる。

0 件のコメント: